アイム・カミング・アウト / ダイアナ・ロス
こんにちは、Ellieです。2021年6月9日。札幌のソウルバーMAYBEの充さんが亡くなってから21回目の月命日です。
以前の記事にも書きましたが、私と主人は先月札幌に引越しました(現在2021年6月)。新型コロナウイルスの感染が収ならない中で、それも札幌が全国一のホットスポットで緊急事態宣言中という中で、緊張の連続の引越しでした。
今回の引越しでは部屋の内覧は省略し契約も入居当日の手続きを残して郵送で済ませました。そのためこの引越しは、充さんの葬儀以来の札幌でした。
札幌へ来て感じたのは焦がれ続けた地が自分の生活の場になった幸福感と達成感と安堵感。しかしそれと同時に、充さんがいないこと、そしてここにMAYBEがないことへの今更ながらの喪失感とどうしようもない寂しさもありました。特に札幌に到着した当日の夜、明かりもまばらなすすきのの街を見た時にはとても切ない気持ちになりました。
そんな中でも生活は何とか落ち着いてきて、とても気候の良い6月の北海道の空気を満喫しつつ、先週から仕事も再開しています。札幌引越し後最初となる今回解説する曲は、Diana Ross(ダイアナ・ロス)の “I’m Coming Out(アイム・カミング・アウト)” です。
この曲も私にとっては充さんとの想い出の曲です。ある夜MAYBEで、私が Diana Ross の別の曲をリクエストしました。媒体がCDになってから発表された曲だったためその曲がMAYBEに無く、スマホを機械に繋いでかけてくれました。そしてその曲を聴いた充さんが声を荒らげました。
「え、こんな曲がいいの!?」
私が頷くと、
「俺から言わせればこんなのはただ歌謡曲を歌うババアだ。ダイアナ・ロスの曲ならもっと良いのあるよ」
驚きと言うよりは、あの時の充さんは怒っておられました(笑)。ただここで私がひるまなかったのは、充さんが私にはとても甘いことを知っていたことと、そんな私に見せたことのない剥き出しのソウル愛を感じたからです。私は半分くらい頭に血が上った充さんの顔を正面からのぞき込んで満面の笑みでこう返しました。
「おすすめは!?」
「いっぱいあるよ!待ってろ!」
このやり取りのあと充さん自らノリノリで何曲もかけてくれて、一番最初にかけてくれたのがこの曲でした。
充さんを怒らせた曲はまた後日紹介したいと思います。ちなみにその後「なんであの曲が好きなの?」と聞かれ、「歌詞です」と答えたところ、それはそれと納得してくれました。
歌詞の和訳に入る前に、この曲の背景とそれに伴うタイトルの訳し方について書いておきたいと思います。
今でもLGBTQコミュニティの応援ソングとして扱われることの多いこの曲は、実際にLGBTQコミュニティに向けて作られたものだったとのこと。つまりこの “come out(カム・アウト)” は同性愛を告白する「カミングアウト」の意味で使われています。
同時にこの曲はダイアナ・ロスがモータウンを離れる頃に発表された曲なのだそうで、「モータウンから出てくる新しい私」という意味も込められているということです。
ここでなぜ「出て行く」ではなく「出てくる」という表現なのかというと、 “out” とセットになっているのが "come(来る)" だからです。英語では動詞と副詞または前置詞の組み合わせによって微妙に意味やニュアンスが変わりるので、このあたりにも注目するとより理解が深まります。
「カミングアウト」の意味が主であるとは言え他の意味も暗に込められているということなのでこれをどう訳そうかと考えた結果辿り着いたのが、「これが私」という言葉でした。同性愛を告白し自分を偽らずに生きて行くという意志、そしてMOTOWNというホームを離れて新しい自分を示しながらキャリアを築いて行こうという意志、どちらの意志も表現できる訳し方です。
ねえ、充さん。あの夜の出来事は私のMAYBE一番の想い出だよ。充さんが回し疲れたら芳川さんに交代して、朝まで2階で4人でレコードを聴いて、本当に素敵な時間だった。私が朝まで起きていられる絶妙の薄さの水割り(ウイスキーの香りのするお水)は、充さんじゃなきゃ分からない加減だったな。
I'm Coming Out / Diana Ross
I'm ... coming ... out
I'm coming
I'm ... coming ... out
I'm coming out
I'm coming ... out
I'm ... coming ... out
I'm coming out
これが私よ
be動詞+動詞の原形ing は現在進行形です。
現在進行形は「今現在進行中のこと」だけでなく
「かなり近い未来のこと(これからすぐに起こること)」にも使われます。
この場合は「これからみんなに知ってもらう」ということなので、後者です。
I want the world to know
世界に知って欲しいの
“want to” は 「○○したい」と中学で習う不定詞です。
“want” と “to” の間に人(ここでは世界)を入れると、
「(人)に○○して欲しい」となります。
Got to let it show
みんなに見せなくちゃ
"let 名詞 動詞" は 「名詞(人・もの)に○○(動詞)させる」という表現です。
直訳すると「私はそれに示させなければならない」となります。
本来は "I got to show it" 「私はそれを示さなければ」でも良いはずですが、
この前のラインの "know" と このラインの "show" で韻を踏むための語順かと思います。
I'm coming out
これが私よ
I want the world to know
世界に知って欲しいの
I got to let it show
みんなに見せなくちゃ
There's a new me coming out
新しい私が出てくる
And I just have to live
とにかく(思うように)生きなくちゃ
And I wanna give
私は与えたいの
I'm completely positive
絶対にできると確信してるの
"positive/negative" は「前向き/後ろ向き」という意味以外にも
決断や答えを伝える際の "yes/no" のように使ったり、
その決断や答えを強調する時にも使われます。
I think this time around
思うのよ、そろそろ
I am gonna do it
私やるわ
Like you never knew it
あなたの想像を超えたやり方で
直訳は「あなたが知りもしなかったやり方で」
Oh, I'll make it through
やり遂げてみせる
The time has come for me
時がやってきたの
To break out of this shell
この殻を破る時が
I have to shout
叫ばなければ
That I am coming out
これが私なんだって
I'm coming out
これが私よ
I want the world to know
世界に知って欲しいの
I got to let it show
みんなに見せなくちゃ
I'm coming out
これが私よ
I want the world to know
世界に知って欲しいの
I got to let it show
みんなに見せなくちゃ
I've got to show the world
世界に示さないと
All that I wanna be
私がなりたいもの全て
And all my abilities
私の全能力も
There's so much more to me
まだまだあるわよ
Somehow I'll have to make them just understand
どうにかして(彼らに)分からせないと
I got it well in hand
私次第なんだってこと
And oh how I have planned
それに私の計画も
I'm spreadin' love
私は愛を広めているの
"I'm coming out" は現在進行形の「これからすぐに起こること」を示す表現ですが、
ここは「現在起こっていること」を表現しています。
愛に関する告白をすること、
また環境を変えて新たなファン獲得に動くこと、
どちらもその行動をとる前(現在)から既に「愛を広めている」と解釈できます。
There is no need to fear
恐れることはないわ
And I just feel so good
すごく良い気分なの
Every time I hear
そう、あれを聞くとね
I'm coming out
これが私よ
I want the world to know
世界に知って欲しいの
Got to let it show
みんなに見せなくちゃ
I'm coming out
これが私よ
I want the world to know
世界に知って欲しいの
I got to let it show
みんなに見せなくちゃ
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タカハシ トモコ (月曜日, 20 3月 2023 16:35)
和訳ありがとうございます!今年ダンサーのソラキさんがこの曲で素晴らしい即興パフォーマンスをされてずっと聞いていたのですが、まさかこんな良い歌詞だったとは��
驚きです。
春分前に知れて良かったです。ありがとうございます!
Ellie (月曜日, 20 3月 2023 19:16)
タカハシさま、コメントありがとうございます。
こちらこそこのページを見つけていただいてありがとうございます!
私もソラキさんのパフォーマンスを拝見してシビレました!時代が変わっても色あせない、まさに名曲ですね(*^^*)