Strange Fruit / Billie Holiday

奇妙な果実 / ビリー・ホリデイ


 こんにちは、エリーです。2024年6月9日。札幌のソウルバーMAYBEの充さんの57回目の月命日です。

 

 今回の曲はいつもとはかなりテイストが異なる曲です。ジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」の和訳と解説をします。アメリカ南部の黒人差別そのものを歌い上げた曲で、先にお伝えしておきますがかなりヘビーな内容です。

 

 この曲を選んだ理由は、先日NHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」でこの曲の特集をしていて、私も一緒に観ていた主人も言葉を失うほどの衝撃を受けたからです。

 

 この曲はアメリカの公民権運動に大きな影響を与え、更には記憶に新しいブラック・ライブズ・マターの運動で歌われた曲でもあります。公民権運動をきっかけに躍進したソウル・ミュージックの重要なルーツのひとつであるとも言えるでしょう。

 

 ソウルを含めブラック・ミュージックの多くは「抵抗の音楽」と言われています。黒人差別がまだ社会にあからさまな形で根強く残っていた1930年代、黒人の、それも女性がこの曲を歌うのは大げさでなく命がけだった時代です。

 

 私は高校生の頃にテキサス州に留学しました。古くからの南部の風習が今も色濃く残る土地です。ホームステイ先は白人の家族でしたが、私のことは家族の一員として受け入れ、我が子のように大切にしてくれました。その一方で、彼らの日常の中には今でも黒人差別が残っていることを目の当たりにすることもよくありました。この曲は今なお残るその根っこを私たちに教えてくれます。

 

 この曲は短い歌詞に非常に多くの描写や情報が詰め込まれているため、今回は久々に解説多めです。解説にあたっては歌詞の掲載サイトGeniusの注釈をかなり参考にさせていただきました。いつものように楽しい曲ではありませんが、ぜひ多くの人に歌詞の意味を確かめながら聴いて欲しい魂の一曲です。

 

 ねえ、充さん。充さんの想い出とは何にも関連の無い曲だけど、いいよね?この曲があったからこそ生まれた曲がたくさんあって、それが私をMAYBEと充さんに繋いでくれたはずだから。

 

 

 

 

Strange Fruit / Billie Holiday


Southern trees bear a strange fruit

南部の木々は奇妙な果実をつける

Blood on the leaves and blood at the root

葉にも根にも血が滴る

Black bodies swinging in the Southern breeze

黒い体が南部のそよ風に揺れる

Strange fruit hanging from the poplar trees

ポプラの木々にぶら下がる奇妙な果実

 

1行目はNHKの番組では「南部の木々には奇妙な果実が実る」と訳されていましたが、私は意図的に「南部の木々は奇妙な果実をつける」にしました。

 

その理由は、文法的にそう訳すのが正しいからということと、この「南部の木々」が「アメリカ南部の文化の象徴」でありこの歌詞の「主体」であるからです。

 

まず、ここでは主語が"southern trees"で動詞が"bear"となっています。"bear"は「(木が)花や実をつける」という意味なので、素直に訳せば上記の訳になります。

  

またこの曲では黒人差別が根深い南部の文化を「木々」に見立て、その中で頻発した黒人に対するリンチの結果として、南部の木々に吊るされた黒人の死体を「奇妙な果実」として表現しています。つまり「奇妙な果実」は「南部の木々」が自らの結果として「つける(実らせる)」ものであり、「実る」という客観的な表現はこの場面には適しません。

 

 

2行目の「葉にも根にも血が滴る」は単なる情景描写にとどまりません。黒人の血を吸って木々が生き続けるというこの描写はつまり、黒人の犠牲の上に成立していた南部の生活そのものの描写でもあります。

 

 

4行目の「ポプラの木」について。ポプラの木はテネシー州の「州の木」であり、テネシー州はKKK(クー・クラックス・クラン)が設立された場所であるとされています。KKKはアメリカの過激な白人至上主義団体で、白装束に白頭巾を被った出で立ちで黒人リンチを繰り広げたことで知られています。

 

 

Pastoral scene of the gallant south

雄々しき南部ののどかな風景

The bulging eyes and the twisted mouth

充血して飛び出た目と歪んだ口

Scent of magnolias, sweet and fresh

甘く新鮮なマグノリアの香り

Then the sudden smell of burning flesh

そして唐突な肉の焼ける臭い

 

 

ここでは黒人へのリンチがどれほど南部の生活の一部であったかを、「穏やかな日常の風景」と「黒人の死体」の描写を並べることで表現しています。

 

 

Here is a fruit for the crows to pluck

この果実はカラスがついばみ

For the rain to gather, for the wind to suck

雨が摘み、風がすする

For the sun to rot, for the tree to drop

太陽が腐らせ、木が落とす

Here is a strange and bitter crop

それは奇妙で苦い実り

 

 

この1行目の"crow(カラス)"は実際にカラスが死体をつついたという描写であると同時に、黒人差別の象徴でもある「ジム・クロウ法(Jim Crow Laws)」を示唆していると解釈できます。

 

ジム・クロウ法とは、南北戦争直後から公民権運動までの間、奴隷制推奨派だった南部州がそれぞれに作った黒人差別を合法化した州法の総称です。例えばこのようなものがありました:白人と黒人の結婚禁止。白人看護師のいる病院に黒人男性は患者として立ち入れない。公共の場での隔離政策等。

 

ジム・クロウとは、白人が黒塗り(ブラックフェイス)で黒人を真似て演じるエンターテインメントであるミンストレル・ショーから生まれたヒット曲「Jump Jim Crow」に由来しています。この曲が人気となったことからジム・クロウはミンストレル・ショーにおいて「田舎のみすぼらしい黒人」を表すアイコン的な存在となりました。このような背景から、ジム・クロウは黒人差別の象徴とされています。

 

 

 

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